旧車 パトカー 街の写真、食べ歩きから不要情報までというブログでしたが2014年に横浜に転居直後に癌発症、その後転移が見られ、現在も療養中。そのため内容がクルマに限らず身近なエリアと話題主体になっています。
by Detachment801
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映画 クロッシング  ネタバレ有り

二ヶ月ほど前、TVの映画紹介で知った映画「クロッシング」

北朝鮮に暮らす人々の姿を描いたその映像、
家族を残し中国へ出稼ぎに向かう父、その家族を襲う悲惨すぎる現実

あまりにも他の娯楽映画とは違うその内容に、
たった数分の予告映像だけでも言葉が出ぬほど衝撃を受けました。

しかし、地味な映画なので上映館は数えるほどしかなく、なかなか見ることが出来ずにおりましたが、偶然も重なり、昨日見てまいりました。場所は銀座のシネパトス、昭和三十年代のようななんとなく饐えた匂いのする小さな劇場。
(チラシ画像は加工してあります)
映画 クロッシング  ネタバレ有り_f0145372_9354114.jpg



既に10分ほど過ぎたところで入館、炭鉱の村、みるからに極貧の家族の家、病に苦しむ母にやたらイケメンな父キム・ヨンス(チャ・インピョ)が肉鍋を食べさせている
息子のジュニ(シン・ミンチョル)がその贅沢なご馳走を前に「今日は何の日ですか?」と真剣に問うが目をそむける父。ジュニはかわいがっていた白犬のぺクの姿がないこと気がつき、吐き、父を責めるが「母さんの命とどちらが大切なんだ!」と一喝されて悲しみ、落胆する。北朝鮮の地方の村における一般市民の食糧事情はそこまで来ているのだ。

ヨンスはもはやこのままでは座して市を待つだけと、意を決して単身国境を越え、中国に出稼ぎに行くことを決意する、重病(後で知ったのだが結核)の妻には一刻も早く薬を、いつも石を使ってジュニと遊ぶ元有名サッカー選手であった父は愛する一人息子にはサッカーボールを、買ってやりたくて。

この父子が二人でサッカーをしたり、息子と別れて歩き出す農村のシーンの映像が切なく美しい。

苦労して中国に渡ってからは、ひたすら重労働で金を稼ぎ、薬を買う生活、しかしとうとう中国公安(警察)の手入れがあり一網打尽に、投獄され北朝鮮に強制送還されるのは火を見るよりも明らかだ。

ところが事態は急変する。報酬が支払われるからある活動に参加しろといわれ、知らぬうちに人権活動家の手引きにより瀋陽にある在中ドイツ大使館に亡命するグループ参加させられてていたのだ、気がついた時には既に遅し、あっという間に韓国に移送されて、ヨンスはある意味では自由の身になってしまう、ひたすら想うは病気の妻と一人息子のことだけ、身を切られるような思いで過ごす毎日。このとき、あんなに入手困難だった妻の薬がここ韓国では保健所で無料配布されていることに驚くのだが、そんな中、北に潜入している活動家から妻の死を知らされ、愕然とする。

帰らぬ父を待っていたが、最愛の母をなくしたジュニは行くあてもなくなけなしの現金と母の片身の指輪を持ち市場をさまよう、シン・ミンチョル(11)の悲しみの演技は強烈、なんと5ヶ月のオーディションの末にこの役に選ばれ、スタッフも皆泣いたそうだ。
私も可愛く健気で頭が良いのに不遇な彼の姿に既に涙が止まらないので困った。時折はさまれる雨の描写が切なくて、監督のセンスがいいです。
ここのシーンは以前日本でもニュース映像として有名になった北朝鮮の子供たちが市場の路上に落ちた残飯などを貪り食う悲惨な隠し撮り映像のままだ。
そんな乞食のような子供たちの中に仲が良かった少女ミソンの姿を発見する、二人は寄り添い、なんとか中国へ行こうとストリートチルドレンの中でも話のわかる一人の少年に案内を頼み豆満江の川原まで到着する、向こう岸は父のいる中国なのだ。

ところがこの少年がジュニにわずかな全財産を要求するところから大変なことが起きてしまう。押し問答の最中に北朝鮮の兵士に発見されてしまうのだ。身を守るため咄嗟に寝返る少年を兵士はこともなげに殴り殺し、ジュニとミソンは強制収容所に入れられるがもちろんそれはこの地では死を意味する。
このあたりはあまりに悲惨で書く気が起きないほどです。ジュニのたった一人の心の拠り所であるミソンの死は、TVの紹介であらすじを知っていた私はもうダメ、
ミソンが死ぬ前に二人で自転車に乗るホンのわずかな幸せの描写が悲しくて見られない。映画館でこんなに泣けたのは初めて、見かねてハンカチを手渡してくれる同行者。いまも涙でモニターが見られん。

その後、父の請願により協力者が動き 賄賂を使い収容所を出たジュニ、あとはひたすら父の元に向かうだけ、落ち合う場所はモンゴルと決められた。このときの同行者に精神異常者がいたことから再び一行は窮地に、ジュニは走り出し、やっとの思いで中国/モンゴル国境を越える、父ヨンスもついにモンゴルの空港に着く、明日は会えるかもしれないとの希望だけを胸に。

もう見ているほうも何度も落胆を繰り返しているので とにかく父子が会えるようにと祈るような思いでスクリーンを見つめるのみ。

それなのに、父は新品のサッカーボールの他にジュニにと持参した栄養剤が空港で見咎められ身動きが取れない。

まったくさえぎるものの無いゴビ砂漠を幾晩も幾晩もひたすら歩くジュニ、私も一応小学生の男の子の父なので、想像しただけで心臓が締め付けられる思いでたまらない。もう早く会わせろ!思わず声が漏れて同行者がこっちを見るほどでした。
夕暮れの赤く染まる空、画面いっぱいに広がる雲、目を疑うほどの星空に浮かぶ月はものすごく綺麗、空の描写は圧巻です。

ここまで読んでくれた方には大変申し訳ありませんが、内容はここまでにさせてください。製作にかかわったすべての方に敬意を表して結末は書かないこととします。

隣国で何が起きているのか、すべての人に見てほしい映画でした、全くの非娯楽作品ですが、朝鮮半島分断は彼らの責任ではなく、その引き金になったのは ほんの65年前まで、その36年もの長きにわたるわが国日本の身勝手な侵略政策とその破綻により本来ドイツのごとく分断されるはずであった日本列島ではなく、不運にも地理的情勢からとばっちりを食って朝鮮半島が連合国に引き裂かれたこと、に他ならないからです。

見終わった後、とても複雑な気分です。今も隣国で、同じようなことが繰り返されているのに、毎日のんびり暮らしている自分が申し訳ないような、といって、なにか事を起こすでもなくまた今日ものんびり暮らしているのだけれど、知る前と知った後ではやはり何かが違うと感じます。今はただ一人でも多くの人に見て欲しいと思ってこの文を書いています。

ハリウッド超大作も楽しくていいのだけれど、このように逆境の中の家族、親子の情愛を真摯に描いた珠玉の作品がアジアで作られていることに感嘆します、

いま日本人では、韓流ブームなどでいくらか親しみを持ち始めている韓国/朝鮮文化ではありますが、そのなかでも金正日独裁政権、ミサイルや拉致問題による嫌悪感から何もわからず、ただ目をそむけるか非難するだけになってしまいがちな北朝鮮事情ですが、やはり知らないでいいはずもなく、できれば全国のすべての中学校/高等学校で上映して欲しい作品と思っています。

これは関係ないことだけれど、韓国のドラマや映画を見ていると、砂浜などで一族が鍋物や焼肉などをしているシーンが良くありますが、海辺のようなところでもみな普段着で、海水浴に来てるわけではなく、飲んで食って歌にあわせて踊ったりするのがとても興味深いなあ、と思いました。

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劇場情報はこのオフィシャルサイトをご覧下さい
チャ・インピョによる撮影日記などもあります
http://www.crossing-movie.jp/index.html
by Detachment801 | 2010-06-27 09:30 | 韓国・朝鮮文化
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